研究テーマ

アフリカ熱帯森林帯に居住している狩猟採集民について紹介するページです。



このページは作成途中です。

                                                    Last updated: October 29, 2003    

       


アフリカ熱帯森林の狩猟採集民集団の分布 (K. TAKEUCHI ,2000)




アフリカ熱帯森林の狩猟採集民、”ポスト”狩猟採集民

上の図のように、アフリカ中央部には狩猟採集を営む(営んでいた)さまざまな民族集団が分布していますが、現在では多くの集団は定住化政策などの影響を受けて、移動しながら狩猟採集活動をおこなうという生活のパターンを失うか、あるいは部分的に保っているだけです。主として農耕に頼って生計を立てている集団も少なくありません。このような集団は、厳密に言えば”ポスト”狩猟採集民と呼ぶべきでしょう。
狩猟採集という生活様式を比較的に維持しているのは、私が1988年から調査をおこなっている、コンゴ共和国北東部に居住するアカの人々です。そのアカにしても、1990年代半ばぐらいから、大規模商業伐採や国立公園の設立などの影響を受けて、生活様式は急激に変化しつつあります。

集団間の歴史的・系統的関係

アフリカ熱帯森林の狩猟採集民は、おしなべて短躯を身体的特徴とするために、俗に「ピグミー」と呼ばれてきました。集団が異なっても生活様式や物質文化に類似の点が多いので、日本人による狩猟採集社会研究では、諸集団をひとくくりにして「ピグミー系」狩猟採集民と表現することが多いのですが、しかし、諸集団間の歴史的関係について確実なことはまだ分かっていません。近年、言語や遺伝学の側面から集団間の歴史的もしくは系統的関係を探ろうという試みがなされていますが、すべての集団を視野におさめる研究はまだあらわれていません。一方、アフリカ熱帯森林帯の狩猟採集民集団は相互に関係はなく、それぞれ特定の農耕民集団から分岐して熱帯森林環境に適応して、類似の生活様式や物質文化を持つようになったと考える研究者もいます。この立場からは、「ピグミー」あるいは「ピグミー系」狩猟採集民というくくり方は妥当ではないということになります。
いずれにせよ、アフリカ熱帯森林に散在する狩猟採集民集団(もしくは”ポスト”狩猟採集民集団)の歴史的・系統的関係の解明はまだ残された大きな課題なのです。

「ピグミー」という語の由来と使用について

アフリカ熱帯森林の狩猟採集民の低身長という身体的特徴は、成長ホルモンの一種であるインシュリン様成長因子が遺伝的に欠如していることによりますが、これは、熱帯森林環境への適応だと考えられています。我々日本人を含めて、ヒトの集団形質的な特徴は環境の影響を強く受けます。アフリカ熱帯森林の狩猟採集民集団が低身長という特徴を持つのは、熱帯森林という環境では身体の小型化が活動にとって適応的であることの結果にすぎず、形質的に異常である、あるいは病的であるというわけではまったくありません。

「ピグミー(Pygmy)」の語は、古代ギリシャ語で肘から拳までの長さ(約35cm)を表すPygmeという語に由来しています。ギリシャ神話では、背丈がこれぐらいの小さな人々をピグマイオイ(Pygmaioi)と呼び、彼らは、女神ヘラの化身(または女神ヘラに変身させられた人間)であるコウノトリとの戦いに1年の4分の1は費やしているとされます。神話ではピグマイオイは人間ではなく、牡羊に化けることもできる超自然的な存在と描かれていますが、一方で、アリストテレスはピグマイオイは「ナイル川の源流の湖水地帯に住む」と記述していて、これは、古代エジプトの記録に拠ったのだと考えられています。エジプト第六王朝(紀元前2500ー2400年頃)のフィオプス二世の署名入りの碑文には、自分が派遣した軍隊の指揮官に、「樹木の国から来た真正のコビト」、「霊地から来た神の踊り子であるコビト」を宮廷につれてくるように命令している文章が残されています。ポリフォニー(多声音楽)を伴う躍動感溢れるダンスは、アフリカ熱帯森林の狩猟採集集団が共有している文化的特徴だと言ってよいのですが、おそらく、この記録こそが、アフリカ熱帯森林の狩猟採集民について残された最古の文字記録であると考えられています。しかし、その後、ギリシャ時代を経て、西欧世界では、アフリカ中央部の森林帯に住む短躯の狩猟採集民は神話やお伽噺の世界の住人と化していき、じつに1873年にドイツの博物学者シェバインフルトが1870年にスーダン南部から現コンゴ民主共和国の北部を探検した際に7人の「アッカ」と自称する狩猟採集民と遭遇した記録が公表されるまで、実在する人々だとは考えられていなかったのです。

かつては、「ピグミー」が「矮小人種」と訳されることがありましたが、「ピグミー」という語には侮蔑的、差別的ニュアンスが含まれるという理由で、最近の日本の新聞ではこの語を使わなくなりました。合衆国の人類学界でも、同様の理由で「ピグミー」の語の使用を避ける傾向が強くなっています。

私は、差別的ニュアンスもさることながら、諸集団間の歴史的・系統的関係が明かでないこと、また、「ピグミー」という身体的特徴を表す語でさまざまな集団をひとくくりにすると、「平均身長がより低い集団ほどより”純粋”な”ピグミー”集団である」といった生物学主義的なトートロジーに陥る恐れがあるので、「ピグミー」という語の使用は避けて、総称としてはアフリカ熱帯森林帯の狩猟採集民集団と記述的に表現し、具体的な記載の際は個別の民族集団名(”アカ”や”バカ”など)を使用するようにしています。


固有言語の謎

アフリカ熱帯森林の狩猟採集民集団については、歴史的・系統的関係をはじめとして今でも分かっていないことがたくさんあるのですが、そのなかでも最大の謎は、どの集団も独自の言語を持たず、農耕民の言語を借用しているという点です。固有言語がどのような言語であったのか、またどうして喪われてしまったのかという問題は古くから注目されてきましたが、なかなか説得力のある説明はあらわれず、現在に至っています。最近ではフランスやベルギーの研究者が、語彙比較や、あるいは音声体系の比較から、いくつかの集団の共通祖語を類推していますが、まだ仮説の構築の段階で、今後の研究の進展を待つというのが現状です。




 写真ギャラリー

アフリカ熱帯森林の狩猟採集民についての全般的な紹介(同僚の都留さんとの共同製作です)
AKA,BAKA,BONGOの人々の写真がアップしてあります。


アカ(AKAの社会と文化

概要

アカはアフリカ熱帯雨林に居住する狩猟採集民の一民族集団で、中央アフリカ南部からコンゴ共和国北東部、コンゴ民主共和国(旧ザイール)のウバンギ川東岸にかけての約7万平方qに居住分布し、人口は1万5千人から3万人と推定されている。
アカ(Aka)は自称(単数mo.aka、複数ba.aka)の語幹をとって命名された学術上の民族集団名であり、近隣に居住する農耕民からはバンベンガ(Ba.mbenga)などさまざまな呼称で呼ばれている。なお、アカとムブティ、バカなどアフリカ中央部に散在する他の狩猟採集民諸集団との歴史的、系統的関係についてはまだ不明である。
アカの言語はバントゥー語系(Guthrieの分類ではC10系統)に属するが、この言語は農耕民から借用したものと考えられている。
網猟を中心とする狩猟、採集、漁撈(掻い出し漁)に従事する一方、地域や集団によっては小規模の焼畑農耕もおこなっている。
祖霊信仰にもとづいたコスモロジーを有しており、生活の諸場面で祖霊を表徴する精霊が登場する多彩なダンスを繰り広げる。
社会的には、”コンベティ”と呼ばれる一人の年長男性とその既婚の息子・娘を中心とする数家族の家族集団が生活単位であり、広域的な政治組織は持っていない。
近隣農耕民とは、アカが子方となる擬制的親族関係を軸として労力と農作物を交換する社会経済的関係を結んでいるが、両者は原則として通婚関係を持たない。

(『世界民族事典』弘文堂,2000に執筆した項目に加筆)



トップページごあいさつプロフィール / やってきたこと・やりたいこと / 書いたもの・話したこと / フィールド・ワークの記録
研究プロジェクトの記録研究ノートアフリカ熱帯森林の狩猟採集民フィールドの記憶ギャラリー リンク
富山大学文化人類学研究室のページへ